「知財戦略」の終わり、スタートアップに求められる本当の知財

考えてみてほしい。

「戦略」とは、たとえば「特定の組織が何らかの目的を達成するための道筋」である(「経営戦略」をいかに定義するか、琴坂将広、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューWEB記事、2016年12月2日)。であれば、目的なき戦略が迷走することは明らかである。「知財戦略」についても変わるところはない。

「知財戦略について相談したい」という問い合わせをよく受ける。「知財戦略」という言葉は、なぜか知財についての戦略がそれ単体で立案し得るものであるという印象を与えるらしい。しかし、組織として達成すべき目的が定まらなければ知財への取り組みに道筋をつけることはできない。そして、組織としての目的は、より上位の経営戦略として決定されるべきものだ。

特にスタートアップは、日々変化する環境に戦略を適合させていく。知財への取り組みは、こうした変わりゆく経営戦略の中に位置づけられるべきものであるものの、戦略を強く意識しなければ、戦略からの乖離が容易に生じる。

発想を逆転させなければならない。知財についての戦略ではなく戦略が知財の前に来なければならない。

「知財戦略」はもう終わりにしよう。

あえて言うならば「戦略知財」「戦略的知財」(strategic IP)といった言葉をつかいたい。「経営戦略の中に位置づけられた知財への取り組み」といった程度の意味だ。知財をそれ単体で存在するものではなく、あくまで経営戦略に従属してその目的達成に寄与する手段として位置付ける。たとえば、「知財」を安易な模倣を抑止する権利の総称と解し、経営戦略上重視すべき知財のポイントが定まったら、その実現を目的としていわゆる「知財戦略」を立案することはあるであろう。しかし、経営の視点からすれば、目的達成に向けた道筋の詳細であって、いわば個々の戦術の遂行であり、戦略という言葉を用いるにふさわしいものではない。戦略は目的に向かう道筋を羅針盤として指し示すものであり、知財自体は経営戦略ではない。とはいえ経営戦略の道筋から外れて成り立つものでもない。

知財戦略か戦略知財か。些細な問題に聞こえるかもしれない。ただ、知財戦略という言葉を否定することで、少なくともこの言葉に謙抑的であることでスタートアップの知財は一段水準が高まる。そう考えている。