ベンチャー知財研究会のオンライン開催に向けて

ベンチャー知財研究会、3月の開催ができず悩ましいです。そして、4月もこの状況なので難しくオンラインでの開催が選択肢として挙がってくるわけですが、オフレコで踏み込んだ議論を行うことによって各自の知見を深めるという開催の趣旨からするとオンラインは適しているのか、正直分かりません。

しかし、世界はアフターコロナの時代に変わったと考えれば、かたちを変えて開催していくことになります。では「アフターコロナ」、つまり発症までの潜伏期間が長く、またその間にも感染力をもつおそれのある新型コロナウィルス(以下「ウィルス」)の大流行が起きてしまった世界において、私たちが受け入れるべき現実はなんでしょうか。

アフターコロナの現実

さまざまな報道がなされている中で確かなことは、他人との物理的な接触を回避すればウィルスは感染していかないことです。人が特定の土地に定着し、そして都市を形成したことが感染症を生み出したという歴史に照らせば(山本太郎著『感染症と文明-共生への道』、岩波新書)、都市に住む以上、これは今回のウィルスに限らず間違いのない感染症予防対策ということになります。また、都市に住む者が感染症を外部に持ち込み、その土地に壊滅的な損害を与えてきたことも歴史的に知られており(同上)、具体策として、都市居住者の移動を制限することも、国単位、地球単位でみたときに間違いのないものと言えます。

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したがって、今後他人との不必要な接触を回避することが推奨され、オフラインでなければならないのかということが常に問われることになります。それと同時に、オフラインに価値があるとして、オフラインで接触するための移動リスクとのバランスが問われます。他人との接触は、少人数の会合であっても、会合の場のみではなくその場に移動する際に生じ得るからです。

会合の場においてはソーシャルディスタンスを確保し、手指消毒・マスクを徹底することによって仮に無視できるとしても、不特定多数の他人と接触せざるを得ない移動による感染リスクはコントロールすることができません。ワクチンによって、あるいはその他テクノロジーによって、ウィルスへの感染懸念が払拭されるまでは移動リスクを無視できないでしょう。不特定多数の他人との接触が生じにくい特定少数の人と会うための近距離移動は今後徐々に許容されていくと予想しますが、さまざまな参加者がそれぞれの移動経路で参加する研究会はウィルスへの感染懸念が残ります。

これまで参加者が移動に当たって支払っていたコストは移動時間と若干の交通費であったところ、今は感染リスクという計り知れないコストになってしまい、低コストに得られていたリアルの価値を改めて見直し、テクノロジーによる解決が図れるまでオンラインでいかにその価値を維持するかということになります。

リアルの価値

それではリアルの価値とは何でしょうか。問題が難しいのでここでは研究会の場に限定します。

まず、①非言語コミュニケーションが挙げられます。参加者の表情、振る舞いから発言の可能性を感じ取ることができます。多くの参加者に意見を述べていただき、活発な議論を行うためにこれは貴重な情報です。オンラインでこうした「表情」を感じ取ることができれば、移動のリスクを参加者が取る必要はなくなりますが、オンラインでそうしたファシリテーションをすることができるのか自信がありません。

また、②人との出会いも挙げられます。研究会の前後で、同じトピックに関心をもった参加者同士でインフォーマルな会話をすることで、研究会自体とは異なる刺激があります。これは、オンライン会議ツール上で特定の人に声を掛けて会話モードに入ることができ、他の人にも今会話中であることが伝われば可能のようにもおもいますが、リアルであれば自然と終了していく個々の会話の引き際が難しいかもしれません。そもそも、そのような会話モードが広く提供されている状況ではありません。

そして、③秘匿性があります。研究会の発表及び質疑応答の内容は、各参加者のパブリックな場におけるフォーマルな発言ではあるものの、公開録音録画禁止とすることによって、活発な議論が促されます。具体例を通じて議論することで一般論に留まらない学びが得られますが、こうした具体例についての議論は記録に残して行うことは躊躇されます。発表内容をオンラインで配布し、オンライン会議ツールでの開催とした場合、無断での公開録音録画の心理的障壁が下がるおそれがあり、発言者が必要以上に発言の内容に責任を問われないという安心を十分に確保できない可能性が高まります。

オンライン開催に向けて

online mtgこうしたリアルの価値をどの程度まで、ツールの選択・参加のルール・ファシリテーションの工夫などによって実現できるのか分かりません。いずれにしても、テクノロジーによる移動リスクの抑制が図られるのがいつになるのか不透明である以上、オンラインでの開催に向けて準備を進め、より未来志向には、オンラインでこそ得られる価値を見い出していけたらとおもいます。