弁理士にできるのに弁理士ができると思っていないこと-参考図書編-

弁理士にできるのに弁理士ができると思っていないことについて、以前書きました。

特許を扱う弁理士は、「解決しようとする課題」と「解決するための手段」という二つの概念を切り口として技術を整理する能力を鍛錬していて、企業がその事業で何を課題としてどのような手段でそれを解決していくのかを考える素地があるのであるから、「技術」という縛りを一旦忘れて、事業に正面から向き合えば、より価値のある貢献をできるという内容です。

以前の投稿では、特許を扱う弁理士について主に述べており、意匠・商標を扱う弁理士については、必ずしもそのまま当てはまるものではありません。しかしながら、意匠出願であれば、どの線を描くか、描くとしてどれを実線にしてどれを点線にするか、商標出願であれば、商品役務をどこまで具体的に記載するか、そして両者に共通して、類比判断の論理構築など、抽象的な概念の操作は出願代理業務における基本動作として共通しており、出願代理業務の経験を重ねることは、弁理士全般にとって、企業がその事業で何を課題としてどのような手段でそれを解決していくのかを概念的に整理して考える素地になると考えます。

未解決の問題

そうは言っても経営に携わったことはないから敷居が高いという声もあります。

この問題、すなわち経営的な経験不足の問題は、知識のインプットで解消可能な性質のものなので、私が読んできて特に有益だったものを参考図書としていくつか挙げてみます。

参考図書

DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー

ハーバードビジネススクールの機関誌『Harvard Business Review』の日本語版で、定期購読しています。時々の経営課題を取り上げた記事が掲載されていて、毎月目を通すことで経営上問題となる事柄、経営者の関心事項等について自分を慣らしていく上でよい機会となります。

スタートアップに対する知財支援に関心のある方には、高宮慎一 (2016)「起業から企業へ:4つのステージの乗り越え方」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』41巻8号40-55頁の一読をお勧めします。スタートアップのシード、アーリー、ミドル及びレイターという4つのステージについて、各ステージでクリアすべきマイルストーンによって定義がなされ、スタートアップの特徴がコンパクトに纏められています。

今枝昌宏 (2014)『ビジネスモデルの教科書』

「ビジネスモデル」を戦略を支える仕組みとして位置づけ、31例の成功パターンを紹介する。それぞれのパターンについて、実際の会社名を挙げ、競合優位性がなぜ得られるのかが解説されており、優位性が生じる仕組みを幅広く学ぶことができます。筆者自身、有効な戦略を立案するためにはアートが求められ、場数を踏むことが避けられないが、ビジネスモデルの定石を型として身につけることによって、戦略を生み出す力を高めることができると解説しているように、これらのパターンを型として学ぶことで新たな事業についてすみやかに理解し、議論をする基礎となります。

三谷宏治 (2014)『ビジネスモデル全史』

14世紀のメディチ家から2010年代のスタートアップまで、多様なビジネスモデルをストーリー仕立てで読むことができる一冊。DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューは月刊であるので幅広い視点を得るには時間を要し、今枝氏の書籍は多数の実例からパターン化しているので一読しただけでは理解が難しいところもあります。この書籍は、まずは幅広くビジネスモデルに触れ、経営の視点を意識する契機になります。

事業目線をもった弁理士となるために、自ら新規の事業を立ち上げた経験が求められるわけではありません。そうした事業を立ち上げ、あるいは経営する方と目線を合わせ、その上で知財の議論をすることができればよい。そうおもえば、基礎的な知識のインプットをしてしまうことで、経験不足の障壁は大幅に低くなるので、是非どれか一冊を手に取るところから始めてみてほしいです。

スタートアップの新規性喪失を巡る一考察 補足

「スタートアップの新規性喪失を巡る一考察」(パテント、2019年1月号、共著)は、スタートアップの特許出願において頻発する新規性喪失の問題について整理した上で、実務上の指針を示しています。

脱稿後、米国最高裁が守秘義務を負う者に対する販売もAIA改正後の米国特許法102条(a)(1)における”on sale”に該当し、新規性を喪失させる先行技術を構成する旨の判断を示しました(Helsinn Healthcare S.A. v. Teva Pharmaceuticals USA, Inc.)。それに伴い、米国特許商標庁(USPTO)は注18に挙げた特許審査便覧(MPEP)における記載を改訂しています。したがって、現時点では、注18を根拠とする14頁左欄「4.実務上の指針(1)29条1項 NDAの活用」14-15行の「米国及び欧州」は「欧州」についてのみ正しいこととなります。

秘密裡の販売は、上述のとおり、新規性を喪失させる先行技術になるものの、優先日から1年以内のグレースピリオドであれば米国特許法102条(b)(1)(A)により先行技術となりません。NDA締結下で行われるあらゆる情報開示が先行技術となるものではないですが(Pfaff v. Wells Electronics, Inc.)、米国での権利化の可能性があるならば、発明の特徴的部分に関する情報開示をなんらかのかたちで行った場合には、それがNDA締結下であっても、遅くとも当該開示日から1年以内に日本出願を行い、優先日を確保することが実務的に望まれます。

ROPPONGIDORI 2DAY INTERNSHIP PROGRAM 2021F

◇実施概要

六本木通り特許事務所は、スタートアップの知財に関心をもつ弁理士・弁理士志望者(弁護士・弁護士志望者も可)を対象に2日間の短期インターンシッププログラムを開催します。未来を変えていくスタートアップの知財を最先端実務で支える六本木通り特許事務所の業務を通じて、スタートアップを支援する魅力に触れていただくことができます。
※知財のうち、エンタメ及びバイオは当所で取り扱っていないため、対象外となります。

名称
ROPPONGIDORI 2DAY INTERSHIP PROGRAM 2021F

実施日程
2021年10月中旬~12月中旬の間の2日間

場所
当所(東京都港区六本木)※顧客のオフィスを訪問する場合があります

時間
10:00-18:30(予定)※新型コロナの状況に応じて懇親会を開催する可能性があります

待遇
日当1万円(税込)

応募資格
弁理士・弁理士志望者(弁護士・弁護士志望者も可)

募集人数
若干名

◇DAY1の予定

10:00 オリエンテーション
スタートアップを顧客とする上で必要な姿勢・能力についてお話します

11:30 案件説明
執務体験をしていただく案件について説明します

12:15 ランチ@六本木ヒルズ近隣
※新型コロナの状況に応じてランチをご一緒します

13:30 案件検討
商標・意匠又は特許の審査対応、他社との紛争又は交渉対応等に必要な補助業務を依頼します

15:00 フィードバック

15:30 案件検討継続

16:30 顧客とのミーティング同席
スタートアップの新たなビジネスについてのミーティングに同席いただきます

17:30 DAY2に向けて
DAY1の体験を振り返るとともに、DAY2の執務体験の内容についてご相談します

◇応募方法

締切
2021年10月4日月曜日13:00まで

応募書類
履歴書・職務経歴書(就労経験のない方は不要)・スタートアップの知財支援に対するご関心(500文字)

応募先
応募書類を recruit.2021@roppp.jp までPDF形式にてご送付ください ※応募の事実・応募書類の内容について秘密を厳守します

選考結果
2021年10月11日までに応募時のメールアドレスにご連絡いたします

プライバシーポリシー

ベンチャー知財研究会のオンライン開催に向けて

ベンチャー知財研究会、3月の開催ができず悩ましいです。そして、4月もこの状況なので難しくオンラインでの開催が選択肢として挙がってくるわけですが、オフレコで踏み込んだ議論を行うことによって各自の知見を深めるという開催の趣旨からするとオンラインは適しているのか、正直分かりません。

しかし、世界はアフターコロナの時代に変わったと考えれば、かたちを変えて開催していくことになります。では「アフターコロナ」、つまり発症までの潜伏期間が長く、またその間にも感染力をもつおそれのある新型コロナウィルス(以下「ウィルス」)の大流行が起きてしまった世界において、私たちが受け入れるべき現実はなんでしょうか。

アフターコロナの現実

さまざまな報道がなされている中で確かなことは、他人との物理的な接触を回避すればウィルスは感染していかないことです。人が特定の土地に定着し、そして都市を形成したことが感染症を生み出したという歴史に照らせば(山本太郎著『感染症と文明-共生への道』、岩波新書)、都市に住む以上、これは今回のウィルスに限らず間違いのない感染症予防対策ということになります。また、都市に住む者が感染症を外部に持ち込み、その土地に壊滅的な損害を与えてきたことも歴史的に知られており(同上)、具体策として、都市居住者の移動を制限することも、国単位、地球単位でみたときに間違いのないものと言えます。

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したがって、今後他人との不必要な接触を回避することが推奨され、オフラインでなければならないのかということが常に問われることになります。それと同時に、オフラインに価値があるとして、オフラインで接触するための移動リスクとのバランスが問われます。他人との接触は、少人数の会合であっても、会合の場のみではなくその場に移動する際に生じ得るからです。

会合の場においてはソーシャルディスタンスを確保し、手指消毒・マスクを徹底することによって仮に無視できるとしても、不特定多数の他人と接触せざるを得ない移動による感染リスクはコントロールすることができません。ワクチンによって、あるいはその他テクノロジーによって、ウィルスへの感染懸念が払拭されるまでは移動リスクを無視できないでしょう。不特定多数の他人との接触が生じにくい特定少数の人と会うための近距離移動は今後徐々に許容されていくと予想しますが、さまざまな参加者がそれぞれの移動経路で参加する研究会はウィルスへの感染懸念が残ります。

これまで参加者が移動に当たって支払っていたコストは移動時間と若干の交通費であったところ、今は感染リスクという計り知れないコストになってしまい、低コストに得られていたリアルの価値を改めて見直し、テクノロジーによる解決が図れるまでオンラインでいかにその価値を維持するかということになります。

リアルの価値

それではリアルの価値とは何でしょうか。問題が難しいのでここでは研究会の場に限定します。

まず、①非言語コミュニケーションが挙げられます。参加者の表情、振る舞いから発言の可能性を感じ取ることができます。多くの参加者に意見を述べていただき、活発な議論を行うためにこれは貴重な情報です。オンラインでこうした「表情」を感じ取ることができれば、移動のリスクを参加者が取る必要はなくなりますが、オンラインでそうしたファシリテーションをすることができるのか自信がありません。

また、②人との出会いも挙げられます。研究会の前後で、同じトピックに関心をもった参加者同士でインフォーマルな会話をすることで、研究会自体とは異なる刺激があります。これは、オンライン会議ツール上で特定の人に声を掛けて会話モードに入ることができ、他の人にも今会話中であることが伝われば可能のようにもおもいますが、リアルであれば自然と終了していく個々の会話の引き際が難しいかもしれません。そもそも、そのような会話モードが広く提供されている状況ではありません。

そして、③秘匿性があります。研究会の発表及び質疑応答の内容は、各参加者のパブリックな場におけるフォーマルな発言ではあるものの、公開録音録画禁止とすることによって、活発な議論が促されます。具体例を通じて議論することで一般論に留まらない学びが得られますが、こうした具体例についての議論は記録に残して行うことは躊躇されます。発表内容をオンラインで配布し、オンライン会議ツールでの開催とした場合、無断での公開録音録画の心理的障壁が下がるおそれがあり、発言者が必要以上に発言の内容に責任を問われないという安心を十分に確保できない可能性が高まります。

オンライン開催に向けて

online mtgこうしたリアルの価値をどの程度まで、ツールの選択・参加のルール・ファシリテーションの工夫などによって実現できるのか分かりません。いずれにしても、テクノロジーによる移動リスクの抑制が図られるのがいつになるのか不透明である以上、オンラインでの開催に向けて準備を進め、より未来志向には、オンラインでこそ得られる価値を見い出していけたらとおもいます。

商標出願プラン「エンジェルラウンド」提供の経緯と今後

VC調達前のスタートアップ向けに区分数を問わず出願時報酬9000円、登録時報酬5000円の商標出願プラン「エンジェルラウンド」を提供開始しました。

2012年からスタートアップのサポートをする機会を得て、少しずつスタートアップへの理解を深め、一歩ずつ価値ある権利を手にしてもらい、その活用に繋がるよう努力してきました。その中で常に課題となってきたことがあります。

「もう少し早く出会えていれば」

もう少し早く出会えていれば、その発明を事業を左右する特許にすることができた。その商標が他社に取得されてしまうことを防ぐことができた。そういう場面を経験してきました。起業家は日々新たに生まれ、それ以降に起業に必要なさまざまなことを吸収されていくため、どれだけ情報発信をしていても、その起業家には届いていません。

強いメッセージでなければ起業家に届かない。「エンジェルラウンド」は、創業期の起業家に商標への取り組みの必要性を少しでも早く伝え、大きな負担を伴わずに商標出願をしてもらうためのプランです。

商標には難しいところもあり、特にスタートアップの商標は対象となる事業がこれまでにないものであることから、通常の商標以上に必要となる検討があります。このプランでは、業務プロセスを定型化して、すべての検討は行えないけれども、まずはコストを抑えて必要な法的保護を行ってもらうことを目的としています。具体的には、このプランの提供に当たって業務プロセスを改めて1つ1つ確認して7つのステップに整理し、各ステップを効率的に実行することで出願準備に必要なコストを抑えています。また、適切な出願をするためには事業理解が必要となりますが、事業説明資料の提出をお願いすることで、その効率化を図ります。ここは負担が大きいかもしれず、今後必要に応じて見直していきます。

振り返ると2015年10月に「全自動商標登録出願」サービスを投資家に事業案として説明していました(図は特許行政年次報告書2014年版より)。

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スタートアップを対象にした場合、必要となる検討の複雑さが高く、実際に立ち上げるまでには至らなかったのですが、かたちが変わり、今回のプランとなりました。

今後はRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の採用、AI(人工知能)の活用によってさらなる効率化の可能性を検討していきます。

「エンジェルラウンド」をどうぞ宜しくお願いいたします。

事務所ウェブサイト公開

2019年11月1日に2017年1月5日の事務所設立から三年を前にウェブサイトを公開しました。website_PC_screenshot_20191103

投資家、起業家、弁護士、知人からのご紹介を主としてスタートアップとの出会いをいただいてきました。これからもこれまでの大切な方々からのご紹介に向き合っていくことは変わりません。ただ、ご紹介いただく際にウェブサイトがないことでご負担をおかけしてしまっていたかもしれません。また、こういったことも相談できるだろうかとお問い合わせをいただくこともあり、守備範囲が予め分からないことでご紹介いただく際にお手を煩わせてしまったかもしれません。

そうした観点から、弁理士大谷の守備範囲をコンパクトにお伝えするとともにその想い、哲学を一つのウェブサイトに纏めました。ミッションとタグラインの言語化は自ら行いましたが、それを視覚表現として美しくデザインしてくれたデザイナーの力を感じた機会でもあります。

今後とも引き続き宜しく願いいたします。

 

 

2017年に資金調達をしたスタートアップの商標出願動向

2017年に1億円以上の資金調達をしたスタートアップの商標出願動向です。2019年9年13日までに公開されたものが対象です。

商標出願動向_2017_公開日20190913まで

FiNCが合計77件の圧倒的な出願数です。社名「FiNC」、サービス名「ダイエット家庭教師」のほか、「ウェルネスマイレージ」「リバウンド割」「フィットネス大学」「ウェルネス家庭教師」「マインドフルヨガ」「美トレ」など未発表のものを含め、さまざまな新サービスのネーミングが出願されています。「PLAY BEAUTY」というタグラインの出願もなされています。

2位のPreferred Networksは38件です。社名及びその略称のほか、「Chainer」「CUPY」などのPFNが提供するオープンソースソフトウェアなどのソフトウェア名、それから各ソフトウェアのロゴなどがさまざまなバリエーションで出願されています

3位のZMPは37件で、社名、サービス名のほかに「A.I.TAXI」「ラブタクシー」など独自のコンセプトと見受けられるネーミングが出願対象となっています。

独自のコンセプトと見受けられるネーミングを積極的に出願していく姿勢は4位のリンクアンドモチベーションによる「戦略人事」「モチベーションインデックス」「モチベーションエンジニアリング」、5位のSALES ROBOTICSによる「LEAD HUNTER」「SALES TECH」「インサイドセールスオートメーション」などにも見られます。

2017年に資金調達しているのに載っていない、こんな分析が見てみたいなどありましたら、是非コメントをいただけたら。

健全な模倣と不健全な模倣、スタートアップが特許を手にして直面する対立

スタートアップが自社事業のコアコンセプトを捉えた発明を成功裡に特許化できたとする。特許発明は、請求項という単位で記述され、請求項記載のすべての文言を充足する発明を用いた事業を他社が行うことは違法であり、当該請求項のいずれかの文言を充足しない発明であれば他社が類似事業において用いても合法である(例外はあるものの、ここでは省略する)。

スタートアップAがファーストムーバーとして走り出し、その事業が一定の顧客層に受け入れられていることが知られていくと類似事業をスタートアップBが開始することが少なくない。類似事業を開始するに当たり、当然市場の可能性、既存事業の有無等の評価が行われるため、スタートアップAの事業の存在をスタートアップBが知らない可能性は皆無であり、端的に言えば、スタートアップBはスタートアップAのコピーキャットである。

コピーキャットは必ずしも避難されるべきものではない。情報というものはそもそも自由に流通するものであり、自由な流通を一定の条件下において制約するのが特許制度を含む知的財産制度である。価値ある情報を生み出した者に報いることで、社会における価値創出を促進することを目的としている。したがって、ある企業がなんらかのかたちで接した情報を活かして事業を立ち上げ、それが先行企業の模倣であっても、先行企業の知的財産権を無断で用いるものでなければそれは原則として合法の模倣であって、健全な市場競争である。

スタートアップAとスタートアップBの関係に話を戻せば、スタートアップBによるスタートアップAの模倣がスタートアップAの特許発明を無断で用いるものでなければ、スタートアップBは適法に市場競争をするものであって、非難されるべき法的根拠はない。

しかしながら、人は一般に自らの所有物の価値を高く評価する傾向にあり、特許権についても例外ではない。スタートアップAは自らの特許発明を裁判所で争った場合に認容されるよりも広いものと考える傾向にあり、スタートアップBはスタートアップAの特許発明を逆に狭いものと考える傾向にある。この溝は、スタートアップAが独自のコンセプトを重んじる企業であり、スタートアップBはコンセプトが独自であることよりもそのエグゼキューションを重んじる企業である場合にさらに広がる。

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言い換えると、権利者は模倣が法的に合法の範囲についても無断の模倣は不健全なものとして考え、模倣者は逆に模倣が法的に違法の範囲についても問題のない健全なものとして考える傾向にある。

こうした倫理的な、あるいは感情的な溝がある状況においてスタートアップAが特許を行使しようとすれば、前提とする価値観が異なることから、スタートアップBの激しい抵抗に直面することになる。スタートアップAは、価値ある特許を手にしても、そこに深い溝が刻まれていることを理解した上で、紛争解決に向けた戦略を練る必要がある。

では具体的に、スタートアップAはスタートアップBにいかに向き合うべきであろうか。再現性をもってスタートアップにとって価値ある特許を成立させることが出来てきた今、ここの戦略立案に注力している。

プライバシーポリシー

個人情報取扱事業者:弁理士法人六本木通り特許事務所
住所:東京都港区六本木6-2-31六本木ヒルズノースタワー17F
代表者:大谷 寛

1.関係法令等の遵守

弁理士法人六本木通り特許事務所(以下「当事務所」という。)は、個人情報の取扱いにつき、個人情報保護法その他関係法令を遵守いたします。

2.個人情報の収集・利用

当事務所は「3.個人情報の利用目的」に掲げる目的のために、以下の個人情報を収集し、利用することがあります。

  • 氏名、住所、所属、役職、SNSアカウント、電話番号、メールアドレス
  • その他当事務所が提供するサービスのために必要な個人情報

3.個人情報の利用目的

当事務所は、収集した個人情報を下記の目的に必要な範囲内で利用し、その他の目的には利用いたしません。

  • 当事務所が提供するサービスの遂行及びこれに関するご連絡
  • 当事務所が提供するサービスに関する情報提供
  • 当事務所の挨拶状等の送付
  • 当事務所が行う採用
  • その他当事務所の業務の適切かつ円滑な遂行

4.個人情報の安全管理措置

当事務所は、個人情報の漏えい、滅失又は毀損を防止するため、個人情報の取扱いに関する責任者を設置して、個人情報の安全管理のために必要かつ適切な体制を整えるとともに、所員に対してそれを周知徹底し、個人情報の安全管理措置を実施いたします。

5.個人情報の第三者への提供

ご本人の事前の同意を得た場合及び法令に基づく場合を除き、個人情報を第三者に提供いたしません。

6.個人情報の開示、訂正等のご請求

当事務所は、個人情報保護法に基づき、当事務所の保有する個人情報に関して、個人情報から特定されるご本人からの開示・訂正等の請求を受け付けております。詳しくは contact (at) roppp.jp までご連絡ください。なお、ご請求が個人情報保護法の定める要件を満たさない場合、個人情報保護法その他の法令により、開示等を拒絶することが認められる事由がある場合には、ご請求にご対応できないことがございます。

6.プライバシーポリシーの変更

個人情報の安全管理を適切に行うため、当事務所は、プライバシーポリシーを随時見直し、改訂することがあります。重要な変更がある場合には、本ウェブサイトへの掲載等、分かりやすい方法でお知らせします。

2023年7月更新

演出家という実演家の創作性について

演出家という職業がある。戯曲に解釈を与え、俳優、小道具、照明などの視覚的要素と音楽という聴覚的要素とによって舞台として組み立てることを役割とする。著作権法において、演出家は「実演家」(2条1項4号)の一例として位置付けられており、著作物を創作する「著作者」(2条1項2号)ではないものとされている。

しかし、蜷川幸雄(1935年-2016年)という演出家がいる。小劇場で上演されるアンダーグラウンド演劇と呼ばれる芝居の俳優、そして演出家としてキャリアをスタートし、1974年の『ロミオとジュリエット』の演出で大きく評価された。その後、『NINAGAWAマクベス』などの海外公演で大成功を収め、世界的な演出家として知られた。

その『ロミオとジュリエット』の初稽古を蜷川氏が次のように振り返っている(蜷川幸雄、『演劇ほど面白いものはない 非日常の世界へ』、2012年9月5日、76-79頁)。

「稽古初日までにセリフを覚えてきてくれと言っておいたのに、主役の市川染五郎(現在の松本幸四郎)さんを除いて、誰も覚えていなかった。で、立稽古なのに、サングラスをしていたりサンダルはいたり、立ち廻りの乱闘シーンでは、座敷箒を逆さに持ってチャンチャンやったりしている。

それで頭にきて、ルネッサンスの時代に、サングラスかけたりサンダル履いたりするかって、怒鳴りました。で、休憩。二時間待つから覚えてこいと。でも、二時間待っても、翌日もセリフが入らないという状態だった。中には、本番の舞台で声が嗄れるからと言って、ちっちゃな声でセリフを言うベテランまでいて、本番で嗄れるんだったら、いまから嗄れちゃえって叫びました。・・・そこで、物を投げたんです。灰皿を投げる、靴は投げる、テーブルは蹴る。怒鳴ったり、罵ったりしながらね。・・・

僕はシェイクスピアを、それまでの教養主義的な解釈ではなく、祭りのように楽しく猥雑で、日本の現代劇にも通じる新しい舞台を創りたかったんです。・・・これだけのお金といろんな人を集めているのだから、いい仕事をして、本来演劇が持っている一種の尊厳を、取り戻そうと演説したのです。」

自らの戯曲解釈の下、俳優を鼓舞し、それまでにない清新な印象を与える舞台を生み出す。このような行為は、「思想又は感情の創作的に表現」する行為(2条1項1号)ではないのであろうか。明らかにそうであろう。景色をみた画家が自らの解釈の下で色と形と格闘し、それを平面作品として描くことと、戯曲を解釈した演出家が視覚的要素と聴覚的要素とによって俳優等の関係者を巻き込みながら舞台を組み立てることとの間に創作的価値の優劣は認められない。

しかしながら、著作権法上、演出家を含む実演家には著作者と比較して限定的な権利のみが与えられている。たとえば、戯曲作家に著作者として与えられる翻案権(著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利(27条))は、演出家には与えられない。極論として、蜷川氏の演出をアレンジした演出で同一戯曲の上演を行う演出家がいたとしても、蜷川氏は無断の翻案としてそれを止めることはできない。戯曲作家であれば、自らの戯曲に対する翻案を止めることができる。

著作権法は、さまざまなステークホルダーの利害調整の痕跡であり、現実的に機能することを優先して必ずしも美しく整合しない。しかし、舞台芸術の世界の友人からの問いで考えさせられたこの問題、つまり、演出家という実演家の創作性に対する法的評価の歪みの問題について、海外の法制を含めて考えを深めてみたい。

[参考]

福井建策「舞台公演は著作物か? 演出家に著作権はあるのか?」セゾン文化財団ニュースレター第83号